報告 【フィクション】

「あなたが探していた方を発見致しました。
そんなに喜んでいただけるとは私共も光栄です。ええ、かなり骨を折りました。ほんの少し法に触れていますが、まあ誤差の範囲でしょう。

さあ涙を拭いてください。ええ、とても喜ばしいことです。
娘さんは怪我もないですし、危険な仕事にも就いていない。手を切らせなければならないような組織ともつながっていません。

ひとつ確認しておきたいのですが…もしも娘さんがあなたに会うのを拒否した場合は…落ち着いてください、もちろんあなたは母親ですし、お気持ちはわかります。
ええ、そうですね、育てるのもたいへんだったのですね。娘さんは被害妄想があって、あなたから暴力を受けたと嘘をつくと、はい、伺っております。
私どもとしてはお客様を信頼しているからこそ法に触れることをしてでも居所を掴んだのです。娘さんの言葉を信じたりはしません。安心してください。

ただ、ちょっと困ったことになりまして…いえ、大丈夫です。娘さんの居所は掴んでいますから、会えないとは言っておりません。

困ったことというのは、娘さんはお母様のおっしゃるように被害妄想が激しいらしく、警察署に被害を相談しており、警察は娘さんを被害者として保護している状態です。

娘さんが警察官をだまして嘘の被害届を出したと仮定しましょう。警察がこの被害届は虚偽だと判断した場合ですが、娘さんは法をおかしたことになります。偽証罪です。
初犯ですし、執行猶予はつくでしょう。せいぜい罰金10万円と言ったところでしょうか。

被害届なんですよね、問題なのは。
加害者は誰かって? それは答えられません。

ええ、ですから、お願いします、落ち着いて聞いてください。
我々が車を出して嫌がる娘さんを連れ去ると犯罪になるんです。しかしお母様、あなたがご自身で車を用意して娘さんを押し込んで連れ戻せばいいんです。だって娘さん、被害妄想という病気ですよね? 本当に暴力があったわけないですよね?
だったら病気の娘さんを病院に連れて行く義務がお母様にあるのではないですか? 入院が必要になるかもしれません。

病院には行かせない? …おっしゃるとおり世間体は大切です。でも考えてみてもらえないでしょうか。
せっかく連れ戻したとしても被害妄想がひどかったら何度でも逃げ出すのではないですか?
いえ、私は娘さんをそんな差別的な言葉で侮辱しているわけではありません。お母様がお心を痛めていらっしゃるのも私共は十分理解しております。

はい、報酬については高額であると承知しております。申し訳ありませんがそれは最初の契約時にご了承いただいたものと認識しておりますし、お返しするわけにもまいりません。

ええ、娘さんの写真は揃っております。
はい、それでは事務所でお待ちしております。」