ある日のカウンセリング

以前、カウンセリングで楽しかったことについて話した。
ネットの無料動画で大好きなアニメを観たこと。
日本語版は違法で、すぐに削除されてしまうから英語版だった。
セリフを覚えるほど好きなアニメだから英語でも十分に楽しめた。

カウンセリングが終わって扉を閉める時。
「そういえば、アニメにはこんなセリフもありました。
 『Son of a bitch! Don't make me laugh!』
 それでは失礼します」
カウンセラーの顔がいつもと違うような気がした。

私は意味を知らずに聞き取れたフレーズを口にしたつもりだった。
カウンセラーの顔が曇るような言葉だったのか、確認のためスマホで「サノバビッチ」を検索して蒼白になった。
なんてことを言ってしまったのだろう。
すぐに「先程は意味も知らずにたいへん失礼な発言をしました。申し訳ありません。」と謝罪のメールを送った。

カウンセラーはどう受け取っただろうか。
次回の面接も相変わらずにこやかに迎えてくださった。

あの日のやりとりを思い出す。
私は『本当に』意味を知らずに言ったのか。
アニメを見ていればそのセリフをどんな状況で誰が言ったのか、わかっていたはず。
それは聞き取れた程度ではなく「まさにこの言葉を使いたかった」であり「しかし日本語で言えば角が立つからとても言えない言葉」だった。
そして、もしもその言葉を使って相手を怒らせてしまったとしても「英語だから意味を知らなかった」と言い訳ができる。

無意識にそこまで考えたうえで、私はカウンセラーに向かってその言葉を吐いたのか。

全てを承知のうえで、普段通りに笑顔でクライエントを迎え入れてくださるカウンセラーを「あの人には勝てない」と思う。