プレイセラピー

 

印象深いセッションがあった。

恐竜博に行ったときに友達がくれたカプセル入りのおもちゃ、組み立て式のティラノサウルスの骨格を眼鏡ケースから取り出して「組み立ててください」とカウンセラーに差し出した。

自分で組み立てては壊しを繰り返していたから5分もあればできるだろうと余興のつもりだった。
精神科医としても働いているカウンセラーだから解剖生理はできて当然だし、どの骨から手をつけるか見てみたいと思った。

人間の骨とティラノサウルスの骨にはいくつか違いがある。
極端に小さな上肢(人間の腕にあたる)と長い尻尾、鎖骨にある烏口突起。

カウンセラーが最初に手にしたのは背骨だった。
分断された背骨を慎重に組み立てたのを見て「やはり背骨からですよね」と私はそこでもう満足していた。
真剣に慎重に背骨から頭骨、肋骨、腸骨と進んでいくのだが15分程で私は飽きてきた。
上肢を左右間違えてつけようとするから「違う」と言って手伝おうとするとするりと身をかわされた。

暇。
カウンセリングを受けにきて暇ですることがない、という状況にふと気が緩んだ。
「友達のAさんに『先生ってパートナーいるの?』って聞かれて、知らないって答えた。
 私も気にはなっていたんだけどカウンセラーの個人情報をクライエントが聞くのはあんまりよくないかなと思って聞かなかった。」
カウンセラーは何も答えず、顔もあげず、真剣に組み立てている。
聞いていないんじゃないかと思った。

「先生のパートナーはどんな人かなって考えたこと あって。

 …パートナー、日本人ではない。

 先生は『〇っしー』って呼ばれてる。」

カウンセラーは何の反応もせずティラノサウルスに集中しているように見えた。 

20分が経過しティラノサウルスがようやく完成した。
私はそれを分解せずに眼鏡ケースに収めた。

次回の予約をして挨拶をし玄関を閉めようとした時「台湾人に似ていると言われます」とカウンセラーが言った。
なにを言いたいのかわからなかった。
誰が台湾人に似ているのか、パートナーが言われるのか、カウンセラーが言われるのか、それとも別の誰かの話をしているのか。
その答えは今も謎のまま。

あれは一種のプレイセラピーだったのかと今にして思う。

今度のセッションにはトリケラトプスの骨格を持って行こう。